ヴァンパイア・ゴーレム
(13)
その時、不意に情景が変わり、おそらくは十五、六歳くらいのこの少女が歌い、踊り、はしゃいでいる姿が見えてきた。
『大好きよ、オラム。心配しないで、いつかきっと、ゴーレムと人間が、仲良く暮らせるときが来るわ。
だって、あなたと私、どこが違っているの? どっちも愛を知ってるのに』
銀髪の少女が顔を覗き込み、微笑みかける。
『そうだね、アージェ。必ずその日は来るよ。きっとすぐにね』
そう言うと、オラムは
敵同士となってしまったゴーレムと人間。
日ごと激化する戦いの中、この恋が、許されるものではないと分かってはいたけれど。
それでも、このひとときが永遠に続くようにと、二人は願っていた……。
甘く切ない過去の
その色あせた唇から、
「ゴーレムめ、この、人殺しの吸血鬼め!」
「ア、アージェ……私だ、オラムだよ、分からないのか!?」
あまりに変わり果てた恋人の姿に、オラムは困惑を隠し切れない。
「アージェとは、誰のことだ?
わたしは
言うが早いか少女は跳ね起き、ゴーレムに斬りつけた。
「くっ、一体どうしたと言うのだ、アージェ……」
不意を突かれて左腕を切り裂かれ、血が滴る傷口を押さえながら、オラムはうめくように言った。
「しつこいぞ、アージェなどという名は知らぬ!
さあ、ゴーレムよ、かかって来い。今こそわたしの力を見せてやろう!」
人間の少女に鋭い眼差しで見据えられ、オラムは動揺を完全には抑えることができぬまま、それでもどうにか剣を拾い上げる。
それまでは
片や人間の戦士は、非人間的とも言える冷酷さで敵に闘いを挑み続ける。
「アージェ……アージェ……アージェ……」
オラムは、ただ少女の名をうわ言のようにつぶやき、相手の剣を防ぐばかりで、自分から攻撃する気力を完全になくしてしまっていた。
そうなれば、勝敗の行方は目に見えている。
「──覚悟!」
「うわっ!」
ついに必殺の気合いを込めた剣先が、深々とオラムの胸を刺し貫いた。
しかし、乾き切った地面に倒れ伏したのは、少女も同時だった。
すでに彼女も、かなりの深手を負っていたのだ。
「オ、オラム!」
「
テッドとスミスが同時に叫び、オラムに駆け寄ろうとしたときだった。
「う、うう……? こ、ここは、どこ……?」
少女が身動きし、眼を開いた。
「ア、ジェ、……」
ゴーレムもまた、死に切ってはいなかった。
か細い声に励まされ、彼は
「あ、オラム……? オラムなのね……よかった、無事、だったのね、会い、たかった……」
少女は涙を浮かべて手を差し伸べ、オラムはそれを握りしめた。
「アージェ、私もだよ!」
どちらの手も傷だらけで、血にまみれている。
「でも……痛い、体中痛いわ、どうして……あたし……?」
「しっかりするんだ、アージェ。何も覚えていないのか?
そうだ、ご両親はどうした?」
「両親……? ああ、お父さん達はね、殺されたの……」
「殺された!? 誰に! ゴーレムにか!? それとも!」
「人間か、ゴーレムか、わから、ない……どっちでも、同じ、よね……。
お父さんと、お母さんが、死んじゃった、のには、変わり、ないもの……」
「アージェ……」
オラムは痛ましげに眼を伏せた。
「あ、あの人達が来て……お父さん達が、死んで、それから……それからは、分からないわ、何も……」
「あの人達? 誰のことだ?」
「よく、わかん、ない……頭、が、ぼんやり、して……。
そうだわ、剣を習ってた、気がする……とても上手、だって、ほめられて、うれしかった、けど……。
でも、やっぱり、あたし……人殺しの、方法なんか、習いたく……」
「剣を習った!? 誰に!?」
「知ら、ない、女の人、よ。たくさん、練、習して……。
そうだ……オラム、そっくりの、ゴーレム、が、いっぱい、いたわ……。
彼らを、相手に……可哀想な、ゴ、レム……」
「くっ、何てことを! どうして、彼女を巻き込む必要があったんだ!」
オラムは歯噛みした。
「ああ……オラム、どこ……? 暗いわ、何も、見えない、さ、寒い……」
「アージェ! すまない、私のせいで!」
手がぱたりと落ちて少女の体から力が抜け、ゴーレムは、温もりの残るその体を抱きしめた。