ヴァンパイア・ゴーレム
(5)
緊迫した数分間が過ぎた後、
「キャップ、第三班です。岩場に到着しました。
いや、よかった……安心して下さい。
これは人間の死体じゃありません。精巧なアンドロイドのようです」
スクリーンには、明らかに人工物と分かるものの腕を取り、こちらに向かって振って見せているジェベルの姿が映し出されており、スミス以下、クルー達は胸をなでおろした。
「どうして、こんな風に放置されているのかは謎ですが、ともかく詳しく調べてみます」
「分かった。慎重にな」
「了解」
ややあって、ジェペル・クライブの通信が再びスピーカーから流れてきた。
「……第三班です。ご覧下さい、キャップ、このアンドロイドはずいぶんと奇妙な構造をしています。
長い間放置されていたからか、内部は簡単に覗けたんですが、胴体の中に、電子部品や装置らしきものは一切ないんです。
それどころか、完全な空洞になっています。一体どうやって動いていたんでしょう?」
クライブの声は隠し切れない当惑の響きを帯びており、着陸船内のメンバー、誰もが
「そんな馬鹿な!」
「空洞だって!?」
「いくらニ千年経っていても、何かは残っているはずだろう」
「見落としたんじゃないのか?」
残っていたクルー達は口々に言い、映像に目を凝らした。
たしかに、そのアンドロイドの内部には配線や電池、集積回路等はおろか、
頭部も同様に、何も入っていない。
「これだけが、たまたま空なんじゃないのか?」
テッドがそう声をかけると、クライブは否定の身振りをし、班員によって解体された数体の人型を指し示した。
「見ろよ、テッド。どれも同じさ。多分、ここにあるのは全部……」
「ホントだ……」
すべての中身が、ものの見事に空だと知り、新人は目を白黒させる。
「よし、分かった。そのまま調査を続行してくれ、クライブ。
直接見てみたい、これから俺もそっちに行く」
「了解しました」
スミスは特に動揺はしなかったものの、興味を
「第五班、後を頼む」
「お気をつけて、キャップ」
ヘルメットを着用しながら着陸船を出ようとした彼は、新米クルーのすがるような眼差しに気づいた。
「ああ、お前も行ってみるか? テッド」
「はい、キャップ!」
テッドは眼を輝かせてヘルメットを引っつかみ、大急ぎで船長の後に続く。
もし、彼に尻尾があったなら、犬のように振っていたところだろう。
宇宙服のナビゲーションシステムに従い、目的地に近づくと、ジェベル・クレイブ班長が手を上げた。
「こちらです、キャップ」
「これか」
船長は転がっている物体の一つに、かがみ込んだ。
「はい。さっき映像でご覧に入れた通り、中は空っぽなんですよ、どれもこれも」
「ふむ。外装板……というより皮膚か。
ともかく、外側はかなり
「そうですね。ここを中心に、かなり広範囲にばらまかれてますよ、この……何と言うか、糸のない操り人形みたいなものは。
何なんでしょう、一体。お分かりになりますか、キャップ……」
スミスは首を振った。
「見当もつかんな、俺も長いこと宇宙船乗りをしているが、こんなアンドロイドを見たのは初めてだ。
ともかく、資料として数体をN.B.に持ち帰り、詳しく調べるしかないだろう。
状態のいいヤツを二、三体、着陸船に運び込んでくれ」
「分かりました。おい、誰か」
クレイブが班員に命じている間に、スミスは立ち上がり、周囲を見回した。
「ふむ……。ここはくぼみになっているから、砂嵐に持っていかれずに済んだのだな。
そして、今回のグレートサンドストームで、砂だけが飛ばされて出てきたわけか?
全部が、あのドームの方を向いて倒れているようだが……おや」
よく見ると、アンドロイドに混じって、様々な武器を
「キャップ、戦争があったってのは、やっぱ事実なんですね。このアンドロイドも戦闘用だったんでしょうか」
「そうかもな」
テッドの問いかけに、あいまいにうなずいて見せた船長は、振り返ると声を張り上げた。
「──よし、第三班! アンドロイドを運んだらここはもういい、調査範囲を広げろ。
俺とテッドはドームに行ってみる」
「了解。お気をつけて」
クレイブに見送られ、船長は新米クルーを連れてドームに向かった。
その開口部から、中に入る。
ドーム内部に林立する、かつては
スミスはその一つ、まだ未調査の建物に入ってみた。
すべての物が砂にまみれ、または埋もれてしまっている。
「みんな砂だらけだなぁ……」
彼の後ろでテッドがつぶやいた時、宇宙服の通信機に連絡が入った。
「キャップ、第一班です。地下へ通じているらしい階段を発見しました。
派手に破壊されてますが、何とか降りていけそうです」
「分かった、すぐ行く。
──全クルーに告ぐ! ドーム内で、地下へ通じる通路が発見された。
全員、一旦調査を打ち切り、現場へ集合せよ!」
「そっか、やっぱ地下都市があるんだな! 生き残りもいるかもしれない!
早く行きましょう!」
飛び立つような勢いの部下を、船長はたしなめた。
「
「そうですね、でも、急ぎましょう、キャップ!」
「慌てると転ぶぞ」
「大丈夫です!」
ともかく彼らは足早に建物から出、ナビゲーションシステムに従って地下通路の入り口へと急いだ。