プロローグ/刻 の砂漠
照りつける太陽、陽炎がゆらめく。紅い砂が風に舞う。
蜃気楼の都市が浮かび上がる。追うと消える逃げ水。
旅人が一人、よろめきながら歩いてゆく。
吹きつける熱い風が、ほこりにまみれ、すり切れた旅人のローブをはためかせる。
かすかに動く、乾いてひび割れた唇。だが、もはや声にはならない。
(わたし……は……なぜ……こんなところにいるのだろう……。
何か……とても……大切なことが……やらなければ……ならないことが……あったはずなのに……。
……思い……出せない……)
しびれ、半ば眠ったような頭で、よろめきながらも、ただひたすら、旅人は歩み続ける。
その足の下で、砂はさっくりと砕け、風が、足跡さえもさらっていく。
──ザザアッ……!
突如、足下の砂山が大きく崩れ、旅人はばったりと倒れた。
足が、弱々しく砂を蹴り、起き上がろうともがく。
だが、その動きは、徐々にゆるやかになっていき、固く握りしめていた手からも力が抜け、指の間からサラサラと砂がこぼれていった。
(これで……楽になる……。
もう……歩かなくて……いい……)
旅人の意識は薄れていき、ひんやりとした暗闇へと、引きずり込まれていった。