ヴァンパイア・ゴーレム
(1)
── プロローグ ──
「やっ!」
「名を名乗る気もないかっ!」
白づくめの戦士は一喝しするとそれを受け止め、荒廃し切った地表に、鋭い
互いの種族の命運を担った闘いが、たった今、開始されたのだ。
鋭い気合と共に切り結び、離れてはまた剣を交え合う。
「たあっ!」
一瞬の隙をついて、ついに白騎士の剣が、敵の
「くっ!」
「今だ!」
決着をつけようと、白い戦士は剣を振り上げる。
次の瞬間、彼の口から、抑えようもなく驚愕の叫びが発せられていた。
「──アージェ!」
地面に転がった漆黒の兜、その下から現れたのは……彼がよく見知っていた顔だったのだ。
──ヅーヅーヅーヅー。
同時に睡眠装置はアドレナリンの体内濃度を上昇させ、深い眠りの中にいた、宇宙探査船トルレンス号の船長、フォルティス・ナーハフォルガー・スミスを目覚めさせた。
漆黒の眼を幾度か瞬かせた後、彼は起き上がり、頭や体に接続されていたコードやパイプを外しながら、インタフォンに声をかける。
「どうした?」
「お休みのところすみません、キャップ。まずいことが起きました。コックピットまで至急……」
「分かった、すぐ行く」
彼は黒い髪をかき上げ、枕元のヘルメットに手を伸ばした。
手馴れた動作でそれを装着しつつ、スミスは隣接する操縦室へと向かう。
ものの一分とたたぬうち、彼は当直の第三班長、ジェベル・クレイブの正面に立っていた。
「キャップ、ご苦労様です」
軍隊式に敬礼をするたくましい男の姿が、船長の冷静な眼に映る。
「状況は?」
返礼することなく、スミスは問い掛けた。
班長は顔をしかめた。
「船内の酸素濃度が下がってきてます。気圧もです。
「どれくらい下がった?」
淡々とスミスは
ジェベルは暗い顔になった。
「幸い、すぐ呼吸に支障が出るほどではないですが、このまま減り続けるなら、やはりどこかに寄港せざるを得ないかと。
それでは、予定が……」
すぐ隣にいた当直員が敬礼をし、説明を加えた。
「両装置の故障は十日前からのようです。酸素濃度の数値変化が異常に少ないとの報告があり、ログを解析しましたところ、一月十六日以降、百分の一の変動も記録されておりませんでした」
「そうか。コンピュータは正常なのだな?」
スミスは表情も変えず、パネルの前に座るオペレータの一人に念を押した。
「はい。キャップ。色々走らせてみましたが、まったく異常なしです」
オペレータは振り返り、答えた。
「よし」
一瞬の
「──クルーに告ぐ。クルーに告ぐ。緊急事態発生。
全員ただちにヘルメットを着用し、まずは各自、居住スペースの酸素濃度及び気圧を確認せよ。
隕石の衝突または腐食により、気密漏れが起きていると思われる。
アラーム装置故障のため、所定の手順に従い、班別に目視及び携帯用漏洩発見装置により破損個所を探し出し、大至急補修せよ。
修理班は、アラーム及び自動修復装置の修理にかかれ!
──以上だ!」
てきぱきとした指令に従い、オペレータ達は一斉にヘルメットを装着する。
スミスは顔を上げ、第三班班長に向かった。
「ここは調べたのか? ジェベル」
「これからです、キャップ」
船長は、トルレンス号のコックピットを見回した。
前方に大きなスクリーンが広がり、ニ十人ほどのオペレータが交替で常駐している、かなり広い部屋。
ここは無論トルレンス号の心臓部であり、航行に支障を来たしかねないため、全員が持ち場を離れるわけには行かない。
「そうか。やはり人手が足りないな」
彼はつぶやき、睡眠装置の制御パネルに手をかけた。
「非番の連中も起こすんですか」
班長の問いに、スミスは肩をすくめた。
「当たり前だろう、多少睡眠不足でも死ぬよりましだ。
ここは外装板その他、船内で一番丈夫にできているが、やられるとやはり痛い。
副操縦室は狭いし、操作も少し面倒だからな。
それにだ、眠ったまま死ぬのは楽かも知れんが、恨まれるぞ」
「あは、違いない。化けて出られるのはごめんですね」
ジェベル・クレイブは頭をかいた。
「それよりお前も皆同様、最悪の事態に備えておけ、ジェベル」
「は!」
班長は敬礼するとすぐにヘルメットを引っかぶり、スペーススーツ本体とのつなぎ目をシールした。
そうしている間にも、船長席のモニター画面には、睡眠装置内で眠る者達の脳波が刻々と映し出される。
全員の脳波に
「全員起床! 非番のところ悪いが、緊急事態だ」